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◆労働政策審議会が報告書(案)を発表

12月中旬に、厚生労働省の労働政策審議会(安全衛生分科会)から、「今後の職場における安全衛生対策について(報告)」の案が発表されました。
この中には、「受動喫煙防止対策の抜本的強化」「メンタルヘルス対策の推進」など、企業に少なからぬ影響を与える内容が盛り込まれており、今年の通常国会に、この内容を基にした労働安全衛生法の改正案が提出される見込みです
以下では、この報告書(案)の主な内容をご紹介します。
 
◆職場における受動喫煙防止対策の抜本的強化
受動喫煙の有害性に関する知識の普及、受動喫煙防止に関する労働者の意識の高まり等を踏まえて、一般の事務所・工場等については、全面禁煙や空間分煙とすることを事業者の義務とすることが適当である、としています。
また、飲食店、ホテル・旅館等の顧客が喫煙できることをサービスに含めて提供している場所についても、労働者の受動喫煙防止という観点からは、全面禁煙や空間分煙の措置をとることを事業者の義務とすることが適当である、としています。
しかし、顧客の喫煙に制約を加えることで営業上の支障が生じ、全面禁煙や空間分煙を行うことが困難な場合には、当分の間、可能な限り労働者の受動喫煙の機会を低減させることを事業者の義務とし、具体的には、換気等による有害物質濃度の低減等の措置をとることとし、換気量等の基準を達成しなければならないこととすることが適当である、としていますが、当面は、国による指導を中心に行うこととし、罰則は付さないこととする、としています。
 
◆職場におけるメンタルヘルス対策の推進
近年、職場におけるメンタルヘルス不調者の増加が大きな社会問題となっているのは周知の通りです。
今後の事業者の取組みとして、医師が労働者のストレスに関連する症状・不調を確認し、この結果を受けた労働者が事業者に面接の申出を行った場合、現行の長時間労働者に対する「医師による面接指導制度」と同様、事業者が医師による面接指導および医師からの意見聴取等を行うことを事業者の義務とする新たな枠組みを導入することが適当である、としています。

なお、ここでいう「新たな枠組み」では、個人情報の保護の観点から、医師(ストレスに関連する症状・不調の確認を行った医師)は、労働者のストレスに関連する症状・不調の状況および面接の要否等の結果について、労働者に直接通知することとする、としています。

◆検討会が報告書を発表

厚生労働省では、昨年7月に「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」を立ち上げ、今年5月にその検討会が報告書をまとめました。今後、この報告書をベースに、労働安全衛生法の改正案が国会で審議される予定となっています。
この改正案が成立した場合、飲食業・サービス業などにとっては大きな負担が強いられることとなりそうです。
 
◆これまでの対策の流れ
職場における受動喫煙防止対策については、平成4年以降、「労働安全衛生法」に定められた快適職場形成の一環として進められました。その後、平成15年に「健康増進法」が施行され、平成17年2月に「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」が発効するなど、受動喫煙を取り巻く環境は大きく変化しています。
また、健康志向の強まりや受動喫煙の有害性に関する知識の普及などから、職場における受動喫煙に対する労働者の意識も高まりつつあります。
 
◆受動喫煙防止を事業主の「義務」へ
このような環境の変化から、現在、企業に対して強く「受動喫煙防止対策」を求める流れになっています。
そして、職場における受動喫煙防止について、従来の「快適職場形成のため」から「労働者の健康障害防止のため」という観点に切り替え、職場における受動喫煙防止を事業主の「義務(罰則付き)」とする法改正が予定されているのです。
 
◆今後の審議状況に注目
今後のあり方として、事務所、工場等では「全面禁煙」「喫煙室を設けそれ以外を禁煙」とすることが求められ、飲食店、ホテル・旅館等においては、原則として「全面禁煙」「喫煙室を設けそれ以外を禁煙」とすることが必要とされ、それが困難な場合は喫煙区域の割合を少なくし、喫煙区域からの煙の漏れを防ぎ、換気等を行うように求められる方向です。

多くの企業に影響を与えることとなりそうな法改正のため、今後の改正案の審議状況が気になるところです。

◆京都地裁の判断

労災で顔や首に大やけどを負った男性が、「女性よりも労災の障害等級が低いのは男女平等を定めた憲法に反する」として、国の等級認定の取消しを求めていた訴訟で、京都地方裁判所は「合理的な理由なく性別による差別的扱いをしており、憲法14条に違反する」として、国に認定の取消しを命じる判決を下しました。
 
◆男女間で障害等級の差
報道によれば、男性は勤務先で作業中、溶けた金属が作業服に燃え移って大やけどを負いました。顔や胸、腹などに跡が残ったため、他の症状を併合して労災認定を申請し、労働基準監督署は男性の障害等級を「11級」と認定しました。
労災保険の障害等級表では、「外貌に著しい醜状を残すもの」として、顔などにけがが残った場合、男性の等級を「12級」、女性の等級を「7級」と規定しています。これは、容姿に著しい傷跡が残った場合、女性のほうが男性より精神的苦痛が大きいなどとしているためです。
 
◆給付金額に大きな差
労働者に後遺症が残った場合に支給される給付について、症状や傷の程度に応じて「1級」から「14級」までの障害等級が定められています。
今回のケースでは、「11級」の認定となるため、223日分を一時金として1回支給されるだけですが、仮に「7級」と認定された場合は、平均賃金の131日分が年金として生涯にわたり支給されることになります。そのため、性別だけで給付金額に大きな格差が生じることは著しく不合理であると判断されたといえます。
 
◆埋まりつつある男女差
障害補償は本来、障害による「逸失利益」を補償する意味合いが強く、交通事故などの損害補償をめぐる裁判でも広く争われており、かつては顔の傷に関して男性の場合はほとんど認められていませんでした。しかし、最近では憲法14条(法の下の平等)に反するとの司法判断が出始めています。

国は、今回の訴訟について控訴を断念したようであり、これに関連して、厚生労働省は、今年度中に労災保険の障害等級表を見直す方針を示しています。

 

◆うつ病などの労災請求・認定件数
2008年度のうつ病を含む精神障害などの労災請求件数は927件(3年で41.3%増)、認定件数は269件(3年で111.8%増)となっており、増加傾向にあります。
そこで、厚生労働省では、企業が実施している健康診断において、うつ病などの精神疾患に関する検査を義務付ける方針を明らかにしました。
2011年度からの実施を目指すとしており、同省が1月に設置した「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」が今後まとめる報告書に盛り込まれる予定で、労働安全衛生法の改正(または厚生労働省令の改正)により対応していくものと思われます。
 
◆高い自殺率の背景にうつ病などの精神疾患
日本では、平成10年から12年連続で毎年3万人を超える人が自殺しており、人口10万人当たりの自殺死亡率(自殺による死亡率)は、欧米の先進諸国と比較して突出して高い水準にあります。
また、うつ病の患者数は2008年には100万人を超えています。これらうつ病をはじめとする精神疾患の増加が、高い自殺死亡率の背景にあると言われているため、自殺防止対策とあわせて、うつ病・メンタルヘルス対策への対策が急務とされていました。
 
◆一体となった取組みが必要

健康診断における「うつ病検査」の実施が、うつ病などの精神疾患の減少につながることが期待されていますが、政府・厚生労働省の対策に頼るだけでなく、職場・地域・家庭におけるうつ病・メンタルヘルス対策への一層の取組みが期待されるところです。

 

◆多くの検査項目で有所見率が上昇
厚生労働省では、定期健康診断で異常が見られた従業員の割合(有所見率)が全国平均より高い事業所(従業員が50人以上で、主な検査項目で全国平均より有所見率やその増加率が大きい事業所、過去3年間で脳・心臓疾患で労災支給決定があった事業所など)に対し、労働基準監督署が重点的に改善を指導するよう求める通知を3月下旬に出しました。
定期健康診断全体の有所見率は、平成11年の「43%」から平成20年の「51%」へと増加しています。平成20年の有所見率については、脳・心臓疾患関係の検査項目の1つである血中脂質検査の「32%」が最も高く、脳・心臓疾患関係の主な検査項目(血中脂質検査、血圧、血糖検査、尿検査、心電図検査)の有所見率は概ね増加傾向にあります。
また、過重労働による脳・心臓疾患による労災支給決定件数は、平成16年度の「294件」から平成20年度の「377件」へと増加しています。
 
◆働き方の見直しと保健指導が必要
過重労働による脳・心臓疾患を予防するためには、「時間外・休日労働時間の削減」や「年次有給休暇の取得促進」等の働き方の見直しに加えて、脂質異常症、高血圧等の脳・心臓疾患の発症と関係が深い健康診断項目が有所見である労働者に対し、労働時間の短縮等の就業上の措置を行うとともに、保健指導、健康教育等を通じて有所見項目の改善を図り、脳・心臓疾患の発症リスクを引き下げることも有効だと言われています。
 
◆具体的な改善指導内容
今回の通知では、事業者の具体的な取組内容として、「定期健診実施後の措置」、「定期健診結果の労働者への確実な通知」、「有所見者に対する医師等による食生活等の保健指導」、「有所見者を含む労働者に対して栄養改善や運動等に取り組むように健康教育・健康相談の実施」などが挙げられています。
一方、都道府県労働局等による具体的な周知啓発、要請等の方法としては、「事業場に対する重点的な周知啓発、要請」や「事業主への自主点検の要請」等があります。

労働安全衛生法では、健診で従業員に異常が見られた場合、医師からの意見聴取や労働時間の短縮、医師による保健指導や健康教育などの義務を事業者に課していますが、今回の指導内容は、これら義務の実施徹底や、実施計画作成時に労働衛生コンサルタントの助言を受けることなどが中心となるとされています。